基幹システムのクラウド化と「SaaSの罠」を回避する最適解

#製造業DX

老朽化した基幹システム(レガシーシステム)の維持限界や、多様な働き方への対応遅れなど、企業のシステム担当者や経営層が抱える課題は年々深刻化しています。その解決策として「基幹システムのクラウド化」が急速に進んでいますが、単なるサーバーの引っ越しや、安易なパッケージ導入は、かえって現場の混乱を招くリスクを孕んでいます。

本記事では、クラウド化のメリット・デメリット、オンプレミスとの違いや移行アプローチといった基礎知識を網羅的に解説します。さらに、多くの企業が陥る「自社の複雑な業務を標準システムに合わせる妥協(SaaSの罠)」を回避するための根本的な解決策まで、事実とデータに基づいて紐解いていきます。

目次

基幹システムとは?クラウドとオンプレミスの違いと基礎知識

クラウド化の検討を進める前に、まずは基幹システムの役割と、システム環境の選択肢である「クラウド」と「オンプレミス」の根本的な違いを整理します。

基幹システムの役割と重要性

基幹システムとは、生産管理、販売管理、在庫管理、人事給与、財務会計など、企業活動の根幹(コア)を支えるシステムを指します。これらのシステムは相互に連携して企業の血液である「データ」を循環させており、万が一システムが停止すれば、業務全体がストップしてしまうため、極めて高い安定性と可用性が求められます。

基幹システムとERP(統合基幹業務システム)の違い

基幹システムのクラウド化を検討する際、よく耳にするのが「ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)」です。両者は混同されがちですが、明確な違いがあります。

  • 基幹システム:「販売管理」「生産管理」「人事給与」など、特定の業務部門ごとに独立して構築されたシステム。部門ごとの最適化には向いていますが、システム間でデータが分断されやすい(サイロ化)という課題があります。
  • ERP(統合基幹業務システム):複数の基幹システムをひとつの巨大なデータベースで統合し、全社のリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)を一元管理するシステムです。ある部門でデータを入力すれば、他部門のデータもリアルタイムで連動するため、経営状態の可視化や全社的な業務効率化に直結します。

現在、基幹システムをクラウド化するアプローチとして、このERPをクラウド上で提供する「クラウドERP」の導入が主流となっています。しかし、多くのクラウドERPはSaaS型(完成されたパッケージ)で提供されるため、後述する「自社の独自業務に合わない」という壁に直面するケースが少なくありません。

クラウドとオンプレミスの徹底比較

基幹システムを構築・運用するインフラ環境は、大きく「オンプレミス」と「クラウド」の2つに分類されます。

  • オンプレミス型:自社内にサーバー機器を設置し、システムを構築・運用する形態です。カスタマイズの自由度が非常に高く、強固な閉域網を構築できる反面、初期費用が膨大になり、ハードウェアの保守や老朽化対応(リプレイス)に多大なコストと人的リソースがかかります。
  • クラウド型:インターネット経由で、外部事業者が提供するサーバーやソフトウェアを利用する形態です。自社で物理サーバーを持つ必要がないため、初期費用を抑えやすく、運用保守の手間を大幅に削減できます。
比較項目 オンプレミス型 クラウド型
初期費用 高額(サーバー購入、構築費など) 低額(無料〜初期セットアップ費のみ)
ランニングコスト 固定費(保守費用、電気代など) 従量課金または月額固定(利用量に応じる)
導入スピード 数ヶ月〜年単位 数日〜数週間(SaaSの場合)
運用・保守 自社で対応(専門知識が必要) 事業者が対応(自社負担なし)
拡張性(スケール) 機器の追加購入・再構築が必要 管理画面から即座にリソース増減が可能

クラウドの提供形態(IaaS / PaaS / SaaS)

クラウドと一口に言っても、どこまでの機能・環境を事業者が提供するかによって3つの形態に分かれます。

  • IaaS(Infrastructure as a Service):サーバー、ストレージ、ネットワークなどの「インフラ」のみを提供する形態。OSやミドルウェア、アプリケーションは自社で構築・管理するため、オンプレミスに近い自由度がありますが、専門的な運用スキルが必要です。
  • PaaS(Platform as a Service):インフラに加え、OSやデータベースなどの「開発環境(プラットフォーム)」までを提供する形態。自社でアプリケーションを開発・稼働させる土台として利用されます。
  • SaaS(Software as a Service):インフラからアプリケーションまで、完成した「ソフトウェア」として提供する形態。ユーザーはインターネット経由でログインするだけで即座に利用を開始できますが、機能は事業者が用意した標準仕様に依存します。

クラウドの実装モデル(パブリック / プライベート / ハイブリッド)

さらに、クラウド環境の専有度合いによっても選択肢が分かれます。

  • パブリッククラウド:複数の企業(テナント)でサーバー環境を共有するモデル。コストメリットが高く、一般的なクラウドサービスの多くがこれに該当します。
  • プライベートクラウド:自社専用のクラウド環境を構築・占有するモデル。高度なセキュリティ要件や独自のカスタマイズが必要な大企業などで採用されます。
  • ハイブリッドクラウド:パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスを要件に応じて適材適所で組み合わせる運用モデルです。

あえてオンプレミスを選択・残すべきケース

クラウド化が主流とはいえ、「すべてをクラウドに移行すべき」というわけではありません。以下のような要件がある場合は、あえてオンプレミスを選択する、あるいはオンプレミスを残してクラウドと連携させる(ハイブリッドクラウド)判断が有効な選択肢となります。

  • 極めて機密性の高いデータを扱う場合:国家機密レベルの情報や、外部への流出が許されない独自のR&D(研究開発)データなどは、物理的に隔離された自社環境に置くケースがあります。
  • ミリ秒単位の超低遅延(リアルタイム性)が求められる場合:工場のFA(ファクトリーオートメーション)機器や生産ラインの制御など、わずかな通信ラグが致命的なエラーを引き起こすシステムは、現場に近いオンプレミス環境(エッジコンピューティング)が適しています。
  • 特殊なレガシーハードウェアとの連携が必須な場合:クラウドに対応していない古い検査機器や、特殊なインターフェースを持つハードウェアと直接通信する必要があるシステムは、オンプレミスに残さざるを得ない場合があります。

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なぜ今、基幹システムのクラウド化が進んでいるのか?(背景と理由)

従来、セキュリティや安定稼働の観点から「基幹システムはオンプレミスであるべき」という考え方が主流でした。しかし現在、多くの企業がクラウド移行へと舵を切っています。その背景には、以下の明確な理由が存在します。

既存システム(レガシーシステム)の老朽化

長年オンプレミスで運用されてきた基幹システムは、ハードウェアの保守期限切れや、度重なる改修によるプログラムの複雑化(スパゲッティ化)に直面しています。システムの中身を理解している担当者が退職し、改修が極めて困難な「ブラックボックス化」に陥るリスク(いわゆる「2025年の崖」問題)を解消するため、クラウドへの刷新が急務となっています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の必要性

市場環境が激変する中、企業にはデータに基づいた迅速な経営判断が求められています。オンプレミスの閉じた環境にデータが散在している状態(サイロ化)では、全社横断的なデータ活用が困難です。クラウド化は、最新のデジタル技術(AIやIoTなど)と基幹システムを連携させ、ビジネスモデルを変革するDX推進の強力な基盤となります。

クラウド技術の進化と一般化

かつて懸念されていたクラウドのセキュリティや可用性は、技術の進歩により飛躍的に向上しました。現在では、メガクラウドベンダー(AWS、Azure、Google Cloudなど)が提供する環境は、一企業が自社で構築するデータセンターよりもはるかに強固なセキュリティ対策が施されており、大企業から中小企業までクラウド移行が「合理的かつ安全な選択肢」として定着しています。

基幹システムをクラウド化するメリット【システム運用・環境面】

基幹システムをクラウド化することで、情報システム部門が抱える運用・環境面での課題の根本的な解決につながります。

サーバー構築・管理が不要になり運用負担が軽減

物理的なサーバー機器を所有しないため、ハードウェアの調達、設置スペースの確保、空調管理、電源管理などが不要になります。これにより、情報システム部門は「システムの保守・維持」という守りの業務から解放され、IT戦略の立案など「攻めの業務」へリソースをシフトできます。

スケーラビリティ(柔軟なシステム拡張)の向上

オンプレミスの場合、事業拡大に伴ってサーバーの処理能力が不足すると、新たな機器の購入とシステム再構築に数ヶ月を要します。クラウドであれば、管理画面からの設定変更だけで、即座にCPUやメモリ、ストレージの容量を拡張(スケールアップ)または縮小(スケールダウン)でき、無駄なIT投資を抑えられます。

プログラムが自動更新され常に最新環境を維持(SaaS型の場合)

SaaS型のクラウド基幹システムであれば、機能の追加やセキュリティパッチの適用など、システムのバージョンアップは提供事業者側で自動的に行われます。自社で改修費用を捻出することなく、最新の環境を利用し続けることが可能です。

自動バックアップと可用性の向上(BCP対策)

クラウド事業者は、堅牢なデータセンターでシステムを運用し、複数拠点へのデータの分散保存(冗長化)を標準で行っているケースがほとんどです。地震や水害、火災などの予期せぬ災害が発生し、自社オフィスがダメージを受けた場合でも、データはクラウド上に安全に保護されているため、迅速な事業継続計画(BCP)の遂行が可能になります。

基幹システムをクラウド化するメリット【業務効率・生産性面】

クラウド化の恩恵はシステム部門にとどまらず、現場の業務効率や全社的な生産性向上にも直結します。

テレワークなど多様な働き方の実現

インターネット環境さえあれば、PCやタブレットから場所や時間を問わず基幹システムにアクセスしやすくなります。VPNなどの複雑な設定なしに、自宅や出張先からでも見積作成や在庫確認、承認業務が行えるため、テレワークをはじめとする多様な働き方をスムーズに実現できます。

手軽なネットワーク化による分業の促進

本社、工場、営業所、物流倉庫など、物理的に離れた複数拠点間でのリアルタイムな情報共有が容易になります。オンプレミス時代に発生しがちだった「拠点ごとのデータ同期のタイムラグ」が軽減され、全社で単一の正確なデータ(シングルソース・オブ・トゥルース)を参照できるため、部門間の連携や分業が飛躍的に効率化されます。

外部システムや専門家との連携強化

クラウドシステムは、外部のSaaSツール(CRM、SFA、MAツールなど)とAPIを介してシームレスに連携しやすい構造を持っています。これにより、システム間のデータ転記(二重入力)といった無駄な手作業を削減できます。また、税理士や社労士などの外部専門家へシステムのアカウントを付与し、オンライン上で直接データを共有・確認してもらうといった運用も容易になります。

基幹システムをクラウドに置くのは危険?セキュリティの懸念と実態

基幹システムという企業の心臓部を「社外(インターネットの向こう側)」に置くことに対し、経営層やセキュリティ担当者が強い不安を抱くのは当然です。ここでは、クラウドのセキュリティに関する実態を解説します。

「オンプレ=安全、クラウド=危険」は過去の常識

かつては「目の届く社内にサーバーがあるオンプレミスの方が安全」と考えられていました。しかし現在では、AWSやMicrosoft Azureといったメガクラウドベンダーは、数千億円規模のセキュリティ投資を行い、世界トップクラスの専門家チームが24時間体制で監視を行っています。物理的なデータセンターの堅牢性や、最新のサイバー攻撃(ランサムウェアなど)への防御力において、一企業が自社で構築するオンプレミス環境がクラウドを上回ることは、もはや現実的ではありません。

クラウド環境で求められる「責任共有モデル」の理解

クラウド自体のインフラは極めて安全ですが、「クラウドを使えば自動的にすべて安全になる」わけではありません。クラウドセキュリティの基本原則に「責任共有モデル」があります。これは、サーバーやネットワークといった「インフラ部分の保護」はクラウド事業者の責任ですが、その上で動かすアプリケーションの脆弱性対策、ログイン時の多要素認証(MFA)の設定、データのアクセス権限管理などは「ユーザー(自社)の責任」になるという考え方です。つまり、クラウド移行において真に懸念すべきは「クラウド自体の弱さ」ではなく、「自社の設定ミスやアカウント管理の甘さによる情報漏洩」なのです。

基幹システムをクラウド化するデメリットと「3つの罠」

ここまでクラウド化のメリットを解説してきましたが、基幹システムの移行は決してバラ色ではありません。選択するアプローチを誤ると、莫大なコストをかけたにもかかわらず、業務効率が低下する致命的な事態を招く恐れがあります。ここでは、企業が陥りやすい「3つの罠」という現実的な壁を指摘します。

クラウド化のデメリット:従量課金などによるコスト予測の不確実性

インフラ環境(IaaS/PaaS)を利用する場合、データ転送量やサーバーの稼働時間に応じた従量課金制となることが多く、月ごとの利用料金が変動します。事業の急成長によって想定以上にコストが膨らむケースもあり、オンプレミスのような固定費としての予算化が難しい点はデメリットとして認識しておく必要があります。

IaaS移行(クラウドリフト)の罠:レガシーシステムの延命とブラックボックス化

最も手軽な移行手法として、既存のオンプレミス環境をそのままクラウドインフラ(IaaS)に載せ替えるだけのアプローチがあります。しかし、これは「サーバーの設置場所が変わっただけ」に過ぎません。業務プロセスは古いまま維持され、複雑に絡み合ったプログラム(技術的負債)やブラックボックス化の根本原因は解消されにくいため、真のDXの実現が困難になります。

SaaSの罠:「Fit to Standard」による業務の妥協

クラウド化の主流であるSaaS型パッケージは、導入が早くコストも抑えられますが、「機能が標準化されている」という決定的な弱点があります。多くの企業(特に製造業やBtoB企業)は、長年の歴史の中で培われた「独自の商流」「複雑な部品構成」「多段階の承認フロー」といった競争力の源泉となる業務プロセスを持っています。しかしSaaSを導入すると、これらの独自要件に対応できず、「システム(標準機能)に業務を合わせる(Fit to Standard)」という妥協を強いられます。結果として現場の混乱を招き、企業の強みを削いでしまうリスクがあります。

スクラッチの罠:膨大なコストと技術的負債

SaaSの制限を嫌い、「自社の業務に最適化したクラウドシステム」をゼロからフルスクラッチで開発しようとすると、今度はコストの壁に直面します。要件定義から開発までに莫大な初期費用と時間がかかるだけでなく、構築後もOSやミドルウェアのアップデートに合わせて自社で保守・改修を続けなければならず、将来的に新たな「レガシーシステム」を生み出す技術的負債のリスクを抱え込むことになります。

基幹システムをクラウドへ移行する代表的なアプローチ

前述の「罠」を回避し、自社に最適なクラウド環境を構築するためには、移行の目的と手法を正しく理解する必要があります。代表的な3つのアプローチを解説します。

リフト&シフト(IaaS移行と最適化)

まずは既存のシステムをそのままクラウドインフラ(IaaS)へ移行(リフト)し、ハードウェアの運用負担を軽減します。その後、時間をかけてクラウドネイティブな環境(PaaSやSaaS、コンテナ技術など)へシステムを段階的に改修・最適化(シフト)していく手法です。初期の移行リスクを抑えつつ、最終的にクラウドの恩恵を最大化できる現実的なアプローチです。

リビルド(クラウド環境での再構築)

既存のオンプレミスシステムを破棄し、クラウド環境を前提としてシステムをゼロから再構築する手法です。最新のアーキテクチャを採用できるため、DX推進の基盤として強力なシステムを構築できますが、開発期間とコストが大きく、業務プロセスの抜本的な見直しが必要になります。

リプレイス(SaaSなどへの乗り換え)

既存システムを捨て、要件に合致するSaaSなどのクラウドパッケージサービスへ完全に乗り換える手法です。自社の業務プロセスが標準的なものであれば、最も早く低コストでクラウド化を実現できますが、前述の「SaaSの罠(システムに業務を合わせる妥協)」に陥らないよう、慎重な適合性評価(フィット&ギャップ分析)が不可欠です。

基幹システムをクラウド化する費用相場と期間の目安

クラウド移行にかかる費用と期間は、選択するアプローチ(SaaS導入か、IaaS移行か、フルスクラッチか)や、既存システムの規模・データ量によって大きく変動します。ここでは一般的な目安を解説します。

1. IaaSへ移行(リフト&シフト)する場合

  • 初期費用相場:数百万円 〜 数千万円(要件定義、インフラ構築、データ移行、テストなど)
  • 月額費用相場:数十万円 〜(サーバーのスペックやデータ転送量に応じた従量課金)
  • 導入期間の目安:半年 〜 1年程度
  • 特徴:既存のオンプレミス環境の規模に比例してコストが跳ね上がります。サーバー停止を伴う移行作業となるため、綿密な計画と長期間のテストが必要です。

2. スクラッチ(クラウド上で独自構築)する場合

  • 初期費用相場:数千万円 〜 億円単位
  • 月額費用相場:数十万円 〜(インフラ費用 + 保守運用費用)
  • 導入期間の目安:1年 〜 数年
  • 特徴:自社の業務要件に合致するシステムを作れますが、要件定義から開発までに莫大なコストと時間がかかります。

3. SaaS(クラウドERPなど)を導入する場合

  • 初期費用相場:数十万円 〜 数百万円(初期セットアップ、データ移行支援など)
  • 月額費用相場:数万円 〜 数十万円(ユーザーID数やデータ容量による)
  • 導入期間の目安:1ヶ月 〜 3ヶ月程度
  • 特徴:標準機能に業務を合わせる(Fit to Standard)ことができれば、最も早く安価に導入できます。ただし、独自のカスタマイズを行う場合は別途高額な開発費が発生するか、そもそも対応できないケースがあります。

代表的なクラウド基幹システム・インフラサービスの具体例

実際に基幹システムをクラウド化する際、どのようなサービスが選択肢になるのでしょうか。大きく分けて「インフラ(IaaS/PaaS)を提供するサービス」と「ソフトウェア(SaaS)として提供されるクラウドERP」の2つのカテゴリに分類されます。

1. インフラ基盤(IaaS / PaaS)の代表例

既存の基幹システムを移行(リフト&シフト)したり、独自のクラウドシステムを構築(スクラッチ)したりする際の「土台」となるメガクラウドサービスです。

  • AWS(Amazon Web Services):世界トップシェア。圧倒的なサービス数と実績を持ち、多くの企業が基幹システムの移行先として選定しています。
  • Microsoft Azure:Windows ServerやActive Directoryなど、既存のMicrosoft製品(オンプレミス環境)との親和性が非常に高く、ハイブリッドクラウド構築に強みを持ちます。
  • Google Cloud:データ分析やAI・機械学習の分野に強みを持ち、基幹システムのデータを活用した高度なDXを推進したい企業に選ばれています。

2. SaaS型クラウドERP(パッケージシステム)の代表例

インフラからアプリケーションまでがセットになった「完成済みのクラウドパッケージ(SaaS)」です。企業規模や目的に応じて多数の製品が存在します。

  • 大・中堅企業向け(グローバル対応など):「SAP S/4HANA Cloud」や「Oracle NetSuite」などが代表的です。世界標準のベストプラクティス(優れた業務プロセス)が組み込まれており、全社的な業務の標準化を強力に推進します。
  • 中小企業・特定業務向け:「奉行クラウド(OBC)」「マネーフォワード クラウドERP」「freee」など。会計や人事労務などの特定領域からスモールスタートしやすく、国内の法制度にも迅速に対応します。

注意点:これらSaaS型のクラウドERPは非常に優秀ですが、前述の通り「システムに自社の業務を合わせる(Fit to Standard)」ことが大前提となります。独自の商流や複雑な製造プロセスを持つ企業が無理に導入すると、現場の運用が回らなくなるリスクがあるため注意が必要です。

クラウド型基幹システム選定のポイント

クラウド化を成功させるためには、単なる機能比較ではなく、自社の事業戦略とシステム全体のアーキテクチャを見据えた選定基準を持つことが重要です。

既存システムや他ツールとのシームレスな連携性の確認

基幹システムは単独で動くものではありません。オンプレミスに残す生産管理システムや、すでに導入しているクラウド型の営業支援ツール(SFA)、外部の物流倉庫システムなどと、APIやファイル連携でスムーズにデータ連携できる柔軟性が不可欠です。システムが孤立してデータが分断される(サイロ化)事態は避けなければなりません。

長期的な視点でのトータルコスト(TCO)の見極め

システム選定時は初期費用や月額のライセンス費用に目が行きがちですが、基幹システムは5年、10年と使い続けるものです。将来的なユーザー数の増加、データ容量の拡張、事業環境の変化に伴う機能改修(カスタマイズ)にどれくらいのコストがかかるのか、導入から運用、廃棄までのトータルコスト(TCO:Total Cost of Ownership)を算出して比較検討する必要があります。

失敗しない!基幹システムをクラウド化する手順(ロードマップ)

基幹システムのクラウド移行は、全社を巻き込む一大プロジェクトです。失敗を防ぐための基本的な手順(ロードマップ)を6つのステップで解説します。

ステップ1. 現状の課題点の洗い出しと目的の明確化

まずは既存システムの構成、連携先、運用コスト、現場が抱える不満などを徹底的に棚卸しします。「なぜクラウド化するのか(コスト削減か、テレワーク対応か、老朽化対策か)」という目的を経営層と現場で共有し、プロジェクトの軸を定めます。

ステップ2. クラウド環境に応じた要件定義

目的を達成するために必要な機能要件、セキュリティ要件、可用性(稼働率やバックアップ方針)を定義します。この段階で、自社の業務プロセスとクラウドサービスの標準機能とのギャップ(Fit & Gap)を分析し、「システムに合わせる業務」と「妥協できない独自業務」を切り分けます。

ステップ3. 移行計画の立案とスケジュール策定

どのシステムから、どのタイミングで移行するか(一斉移行か、段階的移行か)を決定し、詳細なスケジュールを策定します。データの移行手順、テスト期間、並行稼働の有無、万が一トラブルが起きた際の切り戻し(ロールバック)計画もこの段階で綿密に練り上げます。

ステップ4. 移行作業の実施

計画に沿って、クラウド環境の構築、ネットワークの設定、既存システムからのデータ移行(抽出・変換・登録)を実施します。基幹システムのデータ移行は、データの整合性が命となるため、細心の注意を払って行われます。

ステップ5. テスト運用と評価

移行したシステムが要件通りに動作するか、パフォーマンス(処理速度)に問題はないか、他システムとの連携が正常に行われるかをテストします。システム部門だけでなく、実際に業務を行う現場のユーザーにも参加してもらい、実業務に即した受け入れテスト(UAT)を入念に行います。

ステップ6. 本格運用の開始と運用体制の整備

テストで問題がなければ、新システムへの切り替え(カットオーバー)を行い、本格運用を開始します。同時に、障害発生時のエスカレーションフローや、ユーザーからの問い合わせ窓口(ヘルプデスク)など、クラウド環境に合わせた新しい運用・保守体制を稼働させます。

クラウド化を成功に導く「第三の選択肢」

ここまで解説してきた通り、基幹システムのクラウド化において、多くの企業が「SaaSの罠(業務をシステムに合わせる妥協)」と「スクラッチの罠(膨大なコストと技術的負債)」のジレンマに苦しんでいます。

特に、複雑な商流や独自の製造プロセスを持つ企業にとって、このジレンマは事業の競争力を左右する死活問題です。では、この行き詰まりを打破する解決策は存在するのでしょうか。

【解決策】業務をシステムに合わせない「tX-core for AX」という選択肢

SaaSの妥協も、フルスクラッチのコストも回避する「第三の道」。それが、特定のベンダーに依存(ベンダーロックイン)せず、自社の「デジタル資産(持ち家)」としてソースコードやデータを所有・蓄積できる業務適応型コマース基盤「tX-core for AX」です。

フルスクラッチよりもはるかに安価で迅速に導入できるパッケージの利点を持ちながら、企業固有の複雑な業務要件に合わせてコア部分から自由にカスタマイズできるアーキテクチャを採用しています。

【特に製造業・産業機械メーカーにおける強み】

「tX-core for AX」は、特に複雑な業務プロセスを抱える製造業や産業機械メーカーのDXにおいて、高い適応力を発揮します。

  • 部品探索と複雑な構成管理:親機に紐づく膨大な子部品の特定など、一般的なSaaSでは対応が難しい複雑な部品構成の管理と検索を可能にします。
  • アフターサービス受注プロセスの自動化:属人化しがちな保守部品の特定から見積、発注、納品までのプロセスをオンラインで完結させ、営業担当者の負担を大幅に軽減します。
  • 予知コマースの実現:稼働データから消耗品の交換時期を予測し、適切なタイミングで顧客へ提案・自動発注を促すなど、高度なアフターマーケットDX要件に標準対応しつつ、自社の商流に合わせて柔軟に最適化できます。

※ 製造業におけるDX推進の具体的な課題解決についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

【導入事例】基幹システム連携によるBtoB業務のDX成功事例

実際に「システムに業務を合わせる妥協」を回避し、既存の基幹システムとシームレスに連携することでDXを成功させた事例をご紹介します。

基幹データベース・倉庫データとの連携(オフィスコム様)

オフィス家具の製造・販売を行う同社は、自動連携機能を活用し、基幹データベースや倉庫データから商品在庫を管理する仕組みを構築しました。これにより、複数の倉庫からの複雑な配送に対応し、顧客に最短のお届け日を自動で提案するなど、BtoBならではのきめ細やかなサービスを実現しています。

大規模なBtoB物流と基幹システムの統合(UCCコーヒープロフェッショナル様)

全国の飲食店向けに業務用食材を卸す同社は、約1万アイテムの商材を管理するため、BtoB受発注プラットフォームを構築。全国の複数の倉庫から在庫状況と配送距離をもとに自動で出荷を最適化するロジックを組み込み、安定した稼働を実現しています。

まとめ

基幹システムのクラウド化は、単なる「サーバーの引っ越し」や「ITインフラのコスト削減」にとどまりません。それは、全社的な業務効率化を実現し、データ駆動型の経営へとシフトするための「DX推進の第一歩」です。

しかし、一般的なSaaSパッケージへの安易な乗り換えや、単純なIaaS移行では、独自の業務プロセスを持つ企業の競争力は維持できません。「システムに業務を合わせる」という妥協を選ぶのではなく、自社の強みを最大限に活かせる柔軟性と、データを自社でコントロールできる資産性を兼ね備えた基盤を選ぶことが、クラウド化成功の重要な条件です。

自社の複雑な業務要件をオンライン化し、妥協のない真のDXを実現したいとお考えの企業様は、業務適応型基盤「tX-core for AX」の導入をぜひご検討ください。

監修

株式会社イーシーキューブ

国内No.1シェアを誇るEC構築オープンソース「EC-CUBE」の開発元企業です。親会社の株式会社イルグルム(東証スタンダード市場上場)とも連携し、戦略立案から構築・運用・マーケティングまでワンストップのEC支援を行っています。これまでの知見を応用し、製造業の複雑な商取引に対応するDXサービスを提供しています。本記事では現場支援で得た知見をもとに、製造業の課題解決に役立つ「製造業DX」の実践的ノウハウを発信しています。
※ 独立行政法人情報処理推進機構「第3回オープンソースソフトウェア活用ビジネス実態調査」による

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